研究概要 |
アポトーシス誘導シグナル伝達系の制御による抗癌剤耐性卵巣癌治療の基礎的知見を得ることを目的とした本研究から以下の結果を得た. 1.p53遺伝子導入による抗癌剤感受性への影響(1)p53蛋白機能が抑制されているHeLa細胞およびSK-OV-3細胞ではp53遺伝子導入により細胞増殖抑制とCDDP感受性増強がみられたのに対して,CDDP耐性HeLa細胞(HeLa/CDDP細胞)では細胞増殖抑制もCDDP感受性増強もみられなかった.(2)HeLa細胞,HeLa/CDDP細胞,SK-OV-3細胞でp53遺伝子導入によるpaclitaxel(PTX)の感受性増強はみられなかった.(3)SCIDマウスへのSK-OV-3細胞移植腫瘍を用いた検討では,AxCAp53とCDDPとの併用による著明な腫瘍増殖抑制とBax蛋白発現の増強を認めた.2.抗癌剤とp53遺伝子導入併用によるアポトーシス誘導とアポトーシス関連遺伝子・蛋白の変化(1)equitoxic doseのCDDP,VP-16によるアポトーシス誘導時,SK-OV-3細胞ではp53遺伝子下流のBax蛋白発現の増強が観察され,AxCAp53導入によりDNA断片化を生じ,抗癌剤との併用によりDNA断片化率は上昇し,Bax蛋白発現はさらに増強した.一方,HeLa細胞,HeLa/CDDP細胞においては,抗癌剤曝露によるBax蛋白発現の増強はみられなかった.AxCAp53導入またはCDDPとの併用によりp53蛋白の過剰発現がみられたが,ICE遺伝子の発現とDNA断片化はHeLa細胞においてのみ認められた.(2)HeLa/CDDP細胞はPTXに対する随伴感受性を示したが親株に比較してDNA断片化は軽度であった.また,HeLa細胞,HeLa/CDDP細胞でPTXとAxCAp53併用によるDNA断片化の増強はみられず,Bax蛋白発現の変化も観察されなかった.以上の成績から,CDDP耐性細胞はp53依存性および非依存性にアポトーシス耐性に陥っていること,PTXによるアポトーシスはp53非依存性経路を介している可能性が示唆された. 本研究によりp53が不活化されCDDP耐性を示す卵巣癌に対するp53遺伝子導入とCDDPとの併用療法の有用性が示された.またp53非依存性にアポトーシスを誘導するPTXがp53欠損卵巣癌の有効な治療法となり得る可能性が示唆された.
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