研究概要 |
56例の上皮性卵巣癌(低悪性度腫瘍:8例を含む)を対象とした。手術時摘出標本を用い、thymidine phosphorylase(TP)mRNA発現をβ2microglobulin(β2MG)をinner controlとするRT-PCRを行い測定した。TP/β2MGと臨床的および病理組織学的因子との相関について検討した。その結果:(1)TP/β2MGは0.19-5.38(median;0.93)であった。(2)TP/β2MGと臨床進行期および組織学的分化度との間にそれぞれ有意な相関が認められた(P=0.005,P=0.008)。(3)34例においてcomplete resectionが行われ、その内8例に再発が認められた。再発例は非再発例に比較して有意に高いTP/β2MGを示した(P=0.048)。(4)47例で予後追跡可能であり(2-120months median;36months)、累積生存率はTP/β2MGの高い群(≧0.93,n=25)がTP/β2MGの低い群(<0.93,n=22)に比較して有意に低かった(Log rank test,P=0.021)。したがって、RT-PCR法を用いてTPmRNA発現を定量的(客観的)に評価することは、卵巣癌の予後診断に新たな展開をもたらすと考えられる。また、TP濃度の高い卵巣癌患者腹水をmediumとした3次元血管新生モデルを用いたin vitroの検討では、抗癌剤である5'-deoxy-5-fluorouridine(Furtulon)の血管新生抑制効果も確認されて、これはFurtulonがTPにより5-FUに変換するされ、血管新生を阻害したことによると考えられた。したがって、卵巣癌におけるTPmRNA発現の評価は、血管新生阻害をもとにしたtumor dormancy therapyという新しい治療の臨床応用へつながるものと考えられる。
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