研究概要 |
子宮内膜症患者における骨盤腹膜病変では,1998年アメリカ不妊学会の分類により赤色,白色および黒色病変に細分類することが提唱されたが,それぞれの病変による違いが活動性に関与するのか,内膜症の自然史に関与するかは明らかではなかった.私どもは,骨盤腹膜病変の生検材料を用いて増殖因子の(proliferative cell nuclear antigen),および血管新生因子であるVEGF (vascular endothelial growth factor)を検討した結果,内膜症患者腹水中のVEGF濃度は非内膜症患者に比べ,有意に高値であり,さらに血管新生因子として微小血管の内皮に染色されるendoglinおよびCD68による免疫組織染色を行った結果,endoglinおよびCD68による染色は赤色>黒色>白色病変の順であった。その後もHGF (Hepatocyte Growth Factor)とそのレセプターであるc-Metに注目し,同様な検討を行ったところ、骨盤内膜症病変では色素性病変での活動性は同様な結果となった。 さらに、内膜症患者腹水中のMφを分離培養し、MTT assay法により培養上清中のサイトカインをELISA法により測定した結果、無添加のMφの増殖は培養24時間でピーク値を示した。LPS添加後のMφはLPSのある濃度(5ng/ml)までは容量依存的に増殖した。また、内膜症患者腹水中では、LPS添加でMφを刺激した場合、無添加の場合に比べTNF-α、IL-1、IL-6、IL-8、VEGFおよびHGFの産生は2〜4倍上昇していた。従って、初期の活動性内膜症では豊富なMφが内膜症の増殖に関与している可能性が示唆された。 次に、内膜症と不妊の機序に関して検討した。内膜症が不妊の原因となっていることが示されているが、特定の不妊因子が同定されている訳ではなく、様々な因子が関与していることが示唆されている。そこで、内膜症合併不妊症を対象とし、内膜症と不妊との関係をretrospectiveに検討した。その結果、内膜症のASMR進行期別では妊娠率に差はなく、またチョコレート嚢胞が存在するIII期およびIV期の重症例でも、卵管閉塞や癒着が少ない場合には、妊娠率を低下させないことが明らかとなった。
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