研究概要 |
(目的)近年、腫瘍内血管新生の程度と臨床経過と関係することが乳癌をはじめ、胃癌、大腸癌など各種癌で明らかにされてきた。また、細胞死のひとつであるアポトーシスは、悪性腫瘍の増殖能との関係が示唆され、癌細胞の分化度や癌の進展度にも深く関わっていると考えられている。我々はSSPCと卵巣癌の発育や浸潤転移形式を明確にすることを目的をし、SSPCと卵巣癌の腫瘍血管新生と臨床経過との関係および腫瘍の発育や浸潤転移について研究を行った。(方法)腹膜原発漿液性癌(serous surface papillary adenocarcinoma : SSPC)を含む卵巣癌67例(I期 18,II期 4,III期 42,IV期 3)で、血管新生因子platelet-derived endothelial growth factor (PD-ECGF)/dThdPaseや vascular endothelial growth factor (VEGF)の発現、腫瘍内微小血管密度(Intratumoral maicrovessel density ; IMVD)をそれぞれ免疫染色で、また腫瘍組織内、血清、腹水内のdThdPase並びにVEGF濃度をELISA法で計測した。アポトーシス陽性細胞は、DNA nick end labeling (TUNEL)法で腫瘍細胞1,000個あたりの陽性細胞数Apoptotic Index (AI)で評価した。(成績)卵巣癌組織のIMVDは、I期 59.1,II期 74.7,III期 77.1,IV期 91.7と進行例で高い傾向にあった。原発巣と転移巣のIMVDの比較では正の相関関係を認めた(r=0.592)。さらに腹腔内転移巣の大きさと原発巣あるいは転移巣のIMVDとの間にも正の相関関係を認めた(r=0.392, r=0.64)。また免疫染色による腫瘍内dThdPaseが高発現の腫瘍内IMVDは、低発現の腫瘍に比べて有意に高かった。腫瘍内、血清、腹水中のVEGF濃度は、2cm以上の腹腔内転移巣を認めた腫瘍で高い傾向を認めたが、腫瘍内、血清、腹水中のdThdPase濃度は、転移の有無と相関しなかった。AI とIMVDとの間には、有意な相関関係は見いだせなかった。AIの高い群では、癌再発率が低AI群に比して有意に高かった。一方、卵巣癌III, IV期30例とSSPC9例の比較では、卵巣の病変や大きさや腹腔内転移巣の大きさで有意差を認めたが、IMVD,dThdPaseの発現、ほかの臨床病理学的因子間や5年生存率では有意差はなかった。以上から卵巣癌とSSPCの発育進展、特に腹腔内転移には、VEGFやdThdPaseなどの血管新生が関わっている可能性が示唆された。また、アポトーシスは、予後に関連する可能性が示唆された。
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