研究概要 |
妊娠12-42週の流早産、人工妊娠中絶、正常分娩、帝王切開術の際に、患者、妊婦から十分に同意を得て得られたヒト卵膜(羊膜、絨毛膜、脱落膜)を用いて、妊娠週数とヒト卵膜におけるアポトーシスの発現および破水の機序について検討してきた。妊娠11-39週までの羊膜細胞の多くははTUNEL染色法で陰性であったが、妊娠40-41週の羊膜細胞のTUNEL陽性率は急激に増加し、妊娠42週では再び減少した。妊娠40-41週において電顕的にも細胞容積の減少、buddingの形成、核クロマチンの凝集を伴うアポトーシスに特有な微細構造を認めたが、電顕滴的にアポトーシス小体やDNAアガロースゲル電気泳動でDNAラダーを見ることはなかった。この時期の羊膜はアポトーシスに陥った羊膜細胞が上皮から羊膜腔に剥脱し、上皮の欠損を生じることが特徴であった。以上の所見は陣痛の有無と相関していなかった。 羊膜上皮細胞に見られるアポトーシスについてはそのシグナル伝達経路は明らかにされていない。平成12年度は各妊娠週数のヒト羊膜を用いてFas,Fas ligandに注目し、下流に存在するCaspase family(特にCaspase3,8,9)と伴に、それらの発現の変化について検討した。全妊娠週数を通じて羊膜上皮細胞にBcl-2の発現が認められなかったのとは対照的に、FasおよびFas ligand(FasL)の発現ははいずれの週数においても観察された。特にFasLの発現は妊娠末期に強かった。アポトーシスの実行遺伝子蛋白であるcaspase familyのうち、caspase-3,-8,-9の活性については、caspase-3,-8の活性が妊娠末期に上昇したが、caspase-9の活性は全妊娠週数を通じて上昇が認められなかった。興味あることには妊娠末期に認められたヒト羊膜細胞のcaspase-3,-8の活性の上昇は、抗Fas抗体処理されたヒト子宮内膜癌細胞株における活性パターンと非常に類似していた点である。すなわち、羊膜上皮細胞に見られるアポトーシスはmitochondrial pathwayでなく、Fas/FasL systemによって誘導されるdeath domain pathwayが主要なシグナル伝達経路と推測される。
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