研究概要 |
目的:内リンパ嚢の機能不全が内リンパ液の吸収障害を来たし,メニエール病に特有の内リンパ水腫を形成していると考えられている.内リンパ嚢の機能不全をもたらす原因の一つとして幼児期のウイルス感染が内リンパ嚢発育障害を来すものと推測し,ヒト内リンパ嚢における単純ヘルペスウイルス,帯状疱疹ウイルス,E-Bウイルス,サイトメガロウイルスの検索を行った. 対象と方法:対象としてはメニエール病内リンパ嚢手術時に採取できたメニエール病内リンパ嚢(n=8),コントロール群(n=5)として剖検例内リンパ嚢(n=2),聴神経腫瘍手術の内リンパ嚢(n=3)である.内リンパ嚢切片上でin situ hybridization法にて上記4種類のウイルスを検索する. 結果:現在までにメニエール病内リンパ嚢8例中での陽性所見は,帯状疱疹ウイルスが7例(88%),E-Bウイルスが4例(50%),サイトメガロウイルスが1例(13%),単純ヘルペスが0例(0%)である.コントロール群では帯状疱疹ウイルスが2例で弱く染色された. 考察:これらの結果から見ると,帯状疱疹ウイルスおよびE-Bウイルスの陽性率が高く,これらのウイルスと内リンパ嚢機能不全には深い関連があると考えられる.いつ頃感染したかは本実験結果からは不明であるが,一般には帯状疱疹ウイルスやE-Bウイルスの多くは幼児期に感染しているものと考えられる.幼児期に感染したこれらのウイルスが内リンパ嚢に至り,発育途中の内リンパ嚢に感染すると発育障害を来たし,内リンパ嚢機能不全をもたらすことが推測される.但しウイルス感染がそのままメニエール病めまい発作を誘発するのではなく,むしろ内リンパ嚢発育障害に大きく作用して二次的に内リンパ水腫形成に関与すると考える.従ってメニエール病めまい発作自体はは膜迷路破裂説によると考える.
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