研究概要 |
多くのめまい疾患で自律神経異常がその発症の誘因の1つと考えられ、動揺病発症時あるいはめまい発作時にみられる悪心、冷汗、動悸などは前庭自律神経反射系が異常に亢進したために引き起こされると考えられているが、その詳細は不明である。心電図上のR-R間隔をスペクトル解析することにより各周波数成分の増減から交感・副交感神経機能を評価することが可能であるので、今回は前庭刺激を種々の程度で加えた時の自律神経応答を測定した。On verticalの回転刺激を加えた際のαおよびβ交感神経、副交感神経の活動についてスペクトル解析法を用いて測定した。α交感神経成分は0.1Hz,角速度29度/秒、8分20秒刺激では刺激中、後とも変化しなかった。しかし0.2Hz,角速度57度/秒刺激では刺激終了7分後より約60分上昇した。さらに刺激強度を0.4Hz,角速度114度/秒に上げると刺激中に有意な低下を認めた。この低下は刺激後には消失し、刺激前のレベルに戻った。β交感神経成分も0.2Hz刺激ではα交感神経とほぼ同様の経過で上昇したが、0.1Hz、0.4Hz刺激では変化を認めなかった。これに対して副交感神経成分は0.2Hzでの刺激中は変化しなかったが、0.2Hz刺激終了7分後よりその活動が60分間低下した。0.1Hz、0.4Hz刺激では有意な変化はみられなかった。Off vertical刺激ではα交感神経成分の上昇と副交感神経成分の低下がより顕著となった。めまい患者2名に0.2Hz刺激を加えたところ正常者で見られた刺激後の副交感神経成分の低下は認められなかった。次にカロリック刺激(20℃冷水)を行ったところ、α交感神経成分は1分後に有意に低下した後次第に前値に戻ったが、β交感神経成分、副交感神経成分には有意の変化を認めなかった。種々の前庭刺激時にスペクトル解析法を用いて自律神経の活動変化を捉えることにより、自律神経の応答様式の詳細が明らかになることが判明した。
|