研究概要 |
平成10年度 筋皮弁採取後の機能的問題点の検討として,同年度は以下の調査を行った。 1.当教室および関連施設での皮弁・筋皮弁による再建症例の名簿作成 2.サーモグラフィによる皮膚温観察(予備試験):大胸筋皮弁使用例とコントロール群の皮膚温を測定した。筋皮弁採取部は,術後経過時間に関わらず,健側に比較して皮膚温が上昇するという興味ある結果が得られた。このことから,周囲の気温変化や圧上昇が高齢者へどのように影響するか,さらに調査検討を要すると考えられた。 3.離島在住の患者調査:同年度は南大東島在住の患者を調査した。 平成11年度 前年度の研究結果を基に,引き続き該当者を調査し,該当症例の皮膚温が外的環境の変化でどのように変わるか,その他の知覚や筋力との関連性も含めて検討した。 1.該当症例名簿の再検討 再建術当時70歳以上の症例に絞ると,7例が該当。遠隔地在住者は,国頭地区の1例のみであった(前年度の該当者(南大東島在住)は,腫瘍の遠隔転移により死亡)。 2.該当症例における皮膚温・知覚・筋力の検討 上記7名に関し,術後変化出現の有無を以下の項目で検討した。 a)日常動作(聞き取り):全例で本人・家族とも変化なし。 b)知覚・握力測定:全例とも非採取側との差はなく,実際の運動評価としての木村・岸本らのスコアでの評価も,全例満点だった。 c)サーモグラフィ:聞き取り調査で,1例が採取側上肢のこわばり持続を訴えたが,その経時変化観察で同部の温度低下を認めた。原因は,同側の頚部郭清の影響も否定できないため,不明である。しかし,不定愁訴とされてきたこのような訴えに具体的変化を認めたことは,今後の病態解明に対して何らかの手がかりとなりうると考えられた。 以上の結果から,高齢者での筋皮弁・皮弁挙上術は,身体機能を損なうことは少なく、むしろ術後の離床を早め,QOLの向上に有用と考えられた。
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