ウシ網膜から精製した視細胞桿体外節を11-cis-retinolと反応させた。反応溶液から、へキサンを用いてretinolを抽出し、蛍光光度計を接続した高速液体クロマトグラフィーを用いて溶液中のretinolを解析した。この結果、視細胞桿体外節により、11-cis-retinolからall-trans-retinoolおよび13-cis-retinolへの異性化が起こることが確認された。11-cis-retinolと反応させる前に、視細胞桿体外節を熱処理することにより、この異性化反応は抑制されることなく、むしろ促進され、既知の熱に不安定な視サイクル酵素の関与は否定された。視細胞桿体外節による11-cis-retlnolからalltrans-retinolへの異性化の最大反応速度は、78.7nmoles/min/mg proteinであった。これは、視サイクルでおこるall-trans-retinalからall-trans-retinolへの変換速度に比し極めて速かった。11-cis-retinolからall-trans-retinolへの異性化反応に関与する視細胞桿体外節中の分子を同定するために、視細胞桿体外節の主成分であるロドプシンとリン脂質をそれぞれ視細胞桿体外節より精製し、11-cis-retinol と反応させたところ、ロドプシンによりall--trans-retinolへの異性化がおこり、リン脂質では反応は認められなかった。 桿体外節のオプシンに異性化反応の活性が存在することが判明したが、可溶化した外節では異性化反応活性が著しく低下した。精製したオプシンと11-cis-retinolにリン脂質を加えて反応を行うと、異性化反応は抑制された。リン脂質として、桿体外節より抽出したリン脂質、市販されているリン脂質(フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン)を用いたが、すべてに異性化反応に対する抑制効果が認められ、中でもフォスファチジルセリンが最も強い抑制効果を示した。フォスファチジルセリンと炭素鎖の長さが異なる合成フォスファチジルセリンを用いて抑制効果を比較する実験を行ったが、すべてフォスファチジルセリンと同様の抑制効果を示した。生体内ではフォスファチジルセリンが細胞膜の内膜に局在しているため、オプシンの活性部位に影響を与えないが、リン脂質の構築を破壊するとフォスファチジルセリンがオプシンに作用し、異性化反応は見られなくなると考えられた。
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