研究概要 |
ヒトの正常角膜内皮細胞は生体内では分裂,増殖は殆ど観察されずG1期で停止している.しかし生体外では,培養条件下において分裂,増殖が可能である.細胞培養によって分裂,増殖能が確認された培養ヒト角膜内皮細胞を再び角膜実質上で培養したらどのような経過をたどるか,細胞周期に最も関連のあるサイクリンを指標にして検討した.その結果,培養内皮細胞は培養皿上では,M期,G1期,S期,G2期のすべての細胞周期が確認されたが,角膜実質上ではG1期のみであり,正常角膜内皮細胞と同様であった.次に,母角膜の年齢が培養保存後の細胞に与える影響を検討した.初代培養は母角膜の年齢2歳から75歳,すべての年齢にわたり可能であった.このことは,将来患者自身の自己角膜培養の可能性を示唆している.ただし,継代培養後の細胞の定常状態における形態は,年齢の増加に比例して細胞面積の増加つまり細胞密度が減少する傾向にあったことから,角膜内皮細胞移植に際しては若年母角膜の細胞が有利と考えられる. 角膜内皮細胞移植を実際に臨床応用するためには,保存角膜実質と保存角膜内皮細胞を用いた角膜の再構築が必須となる.そこで継代培養した培養内皮細胞を,凍結保存したヒト角膜実質に播種し,角膜内皮細胞層の再構築過程の経時変化を組織学的に検討した.その結果,培養内皮細胞は培養後0.5時間後にはすでにデスメ膜上に接着し,3時間後には一層の角膜内皮細胞層を形成した.48時間後には細胞間接着装置も観察され,組織学的には正常内皮細胞層と同等の組織像を呈していた.また角膜実質のみでは初期より角膜浮腫が観察されたのに対して,再構築角膜では正常に保たれていたことより,再構築内皮細胞層は正常内皮細胞層と同様の柵機能や生理機能を有していると考えられた.以上により角膜内皮細胞の培養及びその保存,保存角膜実質を使用した再構築角膜作成方法が確立された.
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