研究概要 |
L-,P-セレクチンの強い阻害剤であるスルファチドは炎症や損傷組織における、初期の白血球と血管内皮細胞間の接着に重要な役割を果たしている。我々はスルファチドが、ラット腹部皮弁の虚血再潅流障害を抑制する事を明らかにした。又、ラットの15x60mmの背部皮弁の生着長が、実験群とコントロール群で、それぞれ49.5±1.7mm、41.5±2.1mmと有意に(p<0.01 : unpaired t test)延長し、さらに実験群において、生着長とフルオレッセン蛍光法による予想皮弁生着長の間に、49.1±2.0mm、39.7±1.1mmと有意差(p<0.01 : unpaired t test)が存在する事を発見した。経時的な予想皮弁生着長は、皮弁挙上1,24,48,72,96時間後に、それぞれ38.5±1.5mm,45.0±3.6mm,47.5±3.3mm,49.0±2.8mm,49.5±2.9mmと経時的増加し、特に1時間後と24,48,72,96時間後および24時間後と48時間後の値に有意差(p<0.05 : unpaired t test)を認めた。組織学的検討においても、48時間後以降に、皮弁抹消でコントロール群に見られる、真皮層における強い帯状の白血球浸潤は、実験群では欠如していた。セレクチンの阻害剤であるスルファチドは、皮弁内の間質中への小円形細胞の浸潤を抑制する事により皮弁生着長の延長効果を示した可能性が強く示唆された。また、皮弁抹消の壊死には白血球が深く関わっており、フルオレッセン蛍光法による予想皮弁生着長の経時的延長傾向より推定すると、皮弁先端部の生着に血管内での再灌流による障害も関与し、皮弁生着長の延長効果をもたらした可能性も示唆された。詳細な作用機序の確定や、delay現象との関係は今後の課題であると考える。
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