研究概要 |
H10年度は広島大学において,F344ラットに,4NQO投与による口腔癌誘発実験を行い,早期かつ高率に舌癌が発生することを見出した。また,それら舌癌の細胞を培養したところ,培養細胞株が樹立された。 H11年度には,奥羽大学において,まず,広島大学における上記実験で得たラット組織材料を病理組織学的に検討した。その結果,舌癌以上の高頻度で,口蓋・上顎歯肉に扁平上皮癌が発生していることが明らかとなった。その扁平上皮癌はいずれも上顎の骨を破壊し,なかには神経周囲隙へと浸潤する侵襲性の強いものもあった。なお4NQO溶液を飲料水としてラットに投与することで,口蓋癌を高率に見出したという知見は,これまでに報告されていないようである。さらに,それら癌組織における遺伝子異常などを解明するために,癌組織の切片に,坑p53抗体・坑GST-P抗体を用いた免疫組織化学を行った。異常なp53タンパクの発現はほとんど見られなかったが,GST-p蛋白の発現が口蓋よりも舌において高頻度かつ反応強度大で観察された。すなわちGST-Pの発現は口蓋癌の発生・進展に舌癌の場合ほどには,関連していないという新知見が得られたのである。 H11年度には奥羽大学において,4NQOで誘発される口蓋癌の性状を詳細に検討すべく,新たなる発癌実験を行い,ラットの飼育はすでに終了した。この実験では,口蓋癌が高率に生じているのが肉眼的に確認されており,また,病理組織学的ならびに分子生物学的検討が現在進行中であって,それにより今後,口腔癌の遺伝子診断法を開発するための基礎的知見が得られるものと期待される。
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