研究概要 |
歯根嚢胞由来細胞が,嚢胞の増大にどのように関与するのかを調べる目的で,プロスタグランジンE_2(PGE_2)またはトロンボキサンA_2(TXA_2)がこの細胞に及ぼす影響を調べた。その結果,PGE_2は細胞のDNA合成能を低下させたが,TXA_2は濃度によってはこれを促進させた。両プロスタノイドともに,細胞のコラゲナーゼ産生を濃度依存的に抑制した。また,両プロスタノイドともに,細胞のIL-6,LIF,IL-8,MCP-1産生を促進した。さらに,細胞にIL-1刺激を加えた際のPGE_2,IL-6,コラゲナーゼ産生を調べた結果,いずれもIL-1刺激によってその産生は促進された。しかしながら,H7,H89,デキサメタゾンなどの代謝阻害剤の影響が一部異なったことから,シグナル伝達経路はすべて共通でないことが判明した。歯根嚢胞裏層上皮のサイトカイン発現をRT-PCR法にて調べた結果,この上皮細胞は,IL-1,IL-6,IL-8,IL-11,TGF-β1,PDGF-A,aFGFを発現していることが明らかとなり,成長因子のレセプターとしてEGFR,KGFR,HGFR,L-6Rの発現が確認された。歯根嚢胞の拡大は,嚢胞内容液中に滲出してくるタンパク質やムコ多糖類の増加による浸透圧の上昇と,これにともなう内圧の亢進が一因となっていると考えられているため,実験的に解析を行った。アルブミン,ゼラチン,トランスフェリンまたはヒアルロン酸トリプシンまたはヒアルロニダーゼで分解し,浸透圧に及ぼす影響を調べた。その結果,各種タンパク質溶液をトリプシンで分解すると,8〜20mOSMの浸透圧の上昇が認められた。これに対して,ヒアルロン酸では0.1%溶液で約11mOSMの浸透圧の上昇が認められた。これらのことから,嚢胞内容液中に滲出したタンパク質の酵素による分解,低分子化と,ヒアルロン酸自体の集積により浸透圧の上昇が起こる可能性が示唆された。次に,嚢胞内容液中にマトリックス金属プロテアーゼ(MMP)が存在するかどうかを調べた。その結果,嚢胞内容液中には活性型および潜在型のコラゲナーゼおよびゼラチナーゼが存在することが判明した。ウェスタン・ブロッティングの結果,コラゲナーゼはおもにMMP-8,ゼラチナーゼはおもにMMP-9であり,その由来はおもに好中球であることが示唆された。
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