研究概要 |
顎関節症の発症には咬合異常が関与すると考えられているが,いかなる咬合異常が顎関節症の発症にどのように関与しているかは,未だ明らかではない.そこで本研究では,咬合接触の異常に着目し,顎関節症と咬合接触状態および歯列上の咬合力分布の関連を明らかにすることを目的とした.本年度は顎関節症患者40名を対象に,PCPで記録した咬合接触状態(咬合接触点数,咬合接触面積),および咬合力分布について検索した.得られた結果は以下のとおりである.(1)患者群の咬合接触点数は,4.2±2.3点(平均±標準偏差)であった.この値は,昨年度に得られた健常者群の咬合接触点数(21.5±7.7)よりも有意に少なかった.(2)咬合接触点数の左右バランスをAsymmetry Index(AI)を用いて検索すると,患者群のAIは,54.3±32.0%で,健常者群の10.1±7.5%よりも有意に大きかった.(3)咬合接触面積の左右バランスについても,AIを用いて検索すると,患者群のAIは,54.6±33.1%で,健常者群の14.9±9.7%よりも有意に大きかった.(4)前歯部および小臼歯部の咬合接触面積比は,患者群,健常者群ともにほぼ同様の値を示した.(5)患者群の第一大臼歯の咬合接触面積比(11.3±16.6%)は,健常者群の値(32.4±10.7%)よりも有意に小さく,逆に,患者群の第二大臼歯の面積比(55.4±34.2%)は,健常者群の面積比(38.8±10.5%)よりも有意に大きな値を示した.(6)患者群の各歯種の咬合力比は,後方歯ほど大きい傾向を示した.咬合力比の平均は,第二大臼歯(25.4±9.3%),第一大臼歯(14.9±8.6%),第二小臼歯(3.6±3.1%)の順に小さくなった.(7)すべての歯種において咬合力比の値は,患者群と健常者群との間に有意差が認められなかった.以上より,顎関節症患者の咬合接触は,前後的,左右的にバランスを崩していることが示唆された.
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