研究概要 |
本研究においては,まず歯科用レジン中に含まれるビスフェノールAの微量分析方法を確立し,さらに未重合モノマーなどから分解反応によりビスフェノールAが産生されるか否かについて詳細に検討を加えた.また,ラジカル重合硬化時におけるビスフェノールA量の低減化の可能性について明らかにすることを目的とした. 1.ビスフェノールAの微量分析法 ビスフェノールAの微量分析においては,分析時のアルカリ金属イオンの混入を可及的に排除するために石英製の容器を用いた.分離能の向上の点では.メタノール-水系においては80 : 20,アセトニトリル-水系においては60 : 40が最適であった.各種試料の性状に応じて,最適な微量分析法を確立することで対応した. 2.ビスフェノールA関連化合物の分解によるビスフェノールAの溶出 Bis-DMAでは酸性や塩基性の雰囲気下でかなり容易に分解してビスフェノールAを生成した.一方,Bis-GMAでは分解の中間体であるBHPまでは分解が進行するが,BHPからビスフェノールAの生成は全く認められなかった.これらのことから,Bis-GMAは,一連の分解反応における中間体のBHPが極めて安定であるために,分解してビスフェノールAを産生する可能性は極めて低いと結論された. 3.レジン硬化時のビスフェノールAとラジカルの相互作用 2,2'-アゾビスイソブチロニトリルを重合開始剤とした場合には,ビスフェノールAの添加量が多くなるにつれて,誘導期間が長くなり,典型的な重合禁止剤であることが判明した.また,過酸化ベンゾイル(BPO)を重合開始剤とした重合系では,ビスフェノールAはヒドロキノンより長い誘導期間を与え,BPO系では重合禁止剤としてヒドロキノンよりも高い効果を示した.歯科用レジンでは,レジン中に不純物として含有されるビスフェノールAは開始ラジカルと反応して消費され,硬化が始まる時点では反応系内には存在しないと推定された.
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