研究概要 |
自律神経機能検査による生体情報を利用し,装着義歯の生体への影響を身体的・精神的反応としてとらえるための評価法を検討し,生体情報による義歯の評価法の確立および義歯の意義を究明することを目的とした. 被験者は新義歯製作を希望して当科来院した患者のうち,循環器系薬剤の服用がなく大きな全身疾患を有さない患者5名(58.6±2.41歳)を対象とした.新義歯および旧義歯装着時の主観的満足度(VAS評価による義歯機能アンケート),自律神経性愁訴および自律神経機能検査を評価した.生体情報として自律神経機能検査は簡便で非侵襲的方法より心電図および血圧変動による循環器生理学的検査法を応用した.実験は,新義歯および旧義歯装着によるラバー片の咀嚼様運動負荷時の心電図R-R間隔の変動係数、心拍数,収縮期血圧,拡張期血圧を交感神経および副交感神経活動のパラメータとして評価した. その結果, 1.新義歯の装着により義歯満足度は有意に向上し,自律神経愁訴は有意に減少した. 2.新義歯および旧義歯装着時のラバー片の咀嚼様運動負荷によりR-R感覚の変動係数の減少,心拍数の増大および血圧の上昇を認め,交感神経機能の亢進を認めた. 3.ラバー片の咀嚼様運動負荷時の交感神経機能亢進の影響は新義歯装着時に比べ旧義歯装着時により強く現れ,さらに咀嚼用運動負荷終了後では新義歯は直後に回復するのに比べ旧義歯ではより長く持続した. 血行動態による自律神経機能検査は非侵襲的で,簡便かつ再現性が高いなどの利点により一般に広く用いられており,本研究より装着義歯の総合的評価の可能性が示唆され,義歯の自律神経機能への影響が確認された.今後,被験者の追加とともに年齢分布をも考慮し,さらに長期的な自律神経機能への影響を確認したいと考える.
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