研究概要 |
本研究目的はアパタイトセメントが優れた組織親和性を発現する条件を解明することである. そこで従来型セメントが炎症反応を惹起した場合に摘出されたリン酸水素カルシウム(DCPA:アパタイトセメントの構成成分),アパタイトセメントの構成成分であるリン酸四カルシウム(TTCP),セメント粉末(TTCP+DCPA),硬化体粉砕物(組成はアパタイト,crushed set CPC)をラット皮下に埋入し,組織親和性を検討した結果,組織親和性に優れるアパタイトを含む全ての粉末がラット皮下組織に膿瘍を形成し炎症反応を惹起することがわかった.また膿瘍の大きさと粒径を比較すると,粒径の小さいDCPAが強い炎症を惹起することが判明した.さらに,ラット脛骨に作製した骨欠損部に各種アパタイトセメント(従来型,迅速効果型,非崩壊型)を充填しそれらセメントが血液と接することによる影響を組織学的に検討した結果,各種セメントは生体に埋入しても炎症を強く惹起せず親和性に優れていると考えられた.特に小さな顆粒状として存在する場合でも炎症反応ではなく異物反応が認められた.ただ従来型は,血液に触れると硬化しない欠点があり,そのために充填後セメントは一塊にならずその隙間に骨が新生してきたと考えられる.このため逆にセメント内部から骨芽細胞によってセメントを取り囲むように骨への置換が起こりやすくなっているのかもしれない.しかし生体内での安定性からいえば,血液に接触しても崩壊せず,硬化時間の早いセメントの方がよいと考えられる. 以上の結果より,アパタイトセメントは生体親和性に優れ生体内において起炎物質とはなりにくいことが証明された.しかし,アパタイトセメントの組成成分の粉末を埋入した場合は炎症を惹起していることより臨床において使用する場合は,セメント埋入後に崩壊を起こさないようにする必要がありそのためには埋入部位の状態によってこれらアパタイトセメントを選択する必要がある.すなわち,十分な止血が得られる部位であれば従来型セメントで問題ないが,止血困難な部位であれば従来型は禁忌であり非崩壊型セメントの適応となりセメントの使い分けが必要である.
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