研究概要 |
三叉神経痛の新たな治療に関する研究として、ラットの三叉神経末梢にAdriamycin(ADM)を注入し、神経の逆行性軸索輸送により神経節に到達させ組織学的研究、電気生理学的研究を行った。 1.組織学的研究 (1)蛍光顕微鏡による観察:Wistar系ラット(8W,雌)を全身麻酔後(ペントバルビタール、腹腔内注入)、左側のオトガイ孔部を露出し、下歯槽神経にADM5%,1%,0.5%,0.1%の濃度の溶液10μlをマイクロシリンジにて注入した。各ラットを12時間後、18時間後、24時間後に灌流固定し、三叉神経節を摘出して厚さ20μlの凍結切片を作成し、蛍光顕微鏡にてADMの自家蛍光を観察した。その結果、5%ADM注入12時間後に蛍光を認め、1%ADM注入18時間後に少量の弱い蛍光が認められADMが三叉神経節の神経細胞体に到達していることが確認された。(2)病理組織学的検討:上記(1)と同様の手技でADMを注入し、24時間後、7日後、21日後に三叉神経節を摘出し、H&E染色、クリューバ・バレラ染色を行った。その結果、5%ADM注入7日後に、神経細胞体の空胞変性や、虎斑溶解と核の偏在を認める細胞が観察された。また5%ADM注入21日後に、細胞質が空洞化し籠状を呈するとともに細胞核が濃縮している細胞や細胞核が完全に消失している細胞が観察された。 2.電気生理学的研究:ラットのオトガイ神経を剖出し、電気刺激装置を用いて神経を刺激し、誘発された電位を記録した。また上記1.と同様に5%ADMを下歯槽神経に注入し、24時間後、7日後、21日後に誘発電位を記録した。その結果、24時間後では無処置ラットと比較して電位が著しく低下し、7日後以降は波形がほぼ平坦化した。以上より、本法により三叉神経節細胞を不活化できることが明らかになった。
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