研究概要 |
骨組織が再生される過程を解明することは,歯科の臨床上で極めて重要な研究課題である。BMPは細胞のmigration,分化増殖および細胞外マトリックス合成の調節を行うことが示唆された。骨再生におけるBMPを含むTGF-βスーパーファミリーの機能を解明するために,TGF-βスーパーファミリーおよびそのレセプターの遺伝子発現を調節する因子や下流域の細胞外マトリックス合成を調節する遺伝子を検索する必要があると考えた。 BMPは未分化な細胞である骨原芽細胞を刺激し,骨芽細胞への分化を促進し,骨芽細胞など細胞の分化や細胞外基質タンパクの合成に関して中心的な役割を果たしているものと考えられる。そこでin situ hybridization(ISH)と免疫組織化学を用いて,骨組織の再生過程における成長因子:BMP-2,TGF-β1およびそのreceptorの遺伝子発現を検出し,これらの所見を比較検討することによって,骨組織再生の遺伝子カスケードを明らかにし,骨組織の再生機構を解明することを研究目的としている。 材料には体重約200gのWistar系ラットを用いて,下顎角部骨折治癒過程および第1臼歯の抜歯窩における骨の再生過程における,BMP-2,-6,TGF-β1,(BMP receptor type IA,-IB,II,TGF-β receptor type I,-IIの遺伝子発現および蛋白の局在を観察した。 BMP-2の遺伝子は骨折あるいは抜歯後2日目,-6は3日目に強く発現した。光顕ISHではBMPR-IB mRNAのsignalは1日目の破骨細胞および繊維芽細胞様細胞に発現した。抜歯後2日目では線維芽細胞にsignalが発現した。抜歯後3日目ではsignalは新生骨梁付近の骨芽細胞やその周囲の線維芽細胞に発現,4日目以後では抜歯窩内のsignalは極めて弱く,ほとんど観察することは出来なかった。電顕ISHでは抜歯後5日目以後でも骨芽細胞や線維芽細胞のsignal認められた。BMPは骨折や抜歯窩の治癒過程の初期段階では新生骨や線維形成を促進するほかに骨形成に先行して骨吸収を促進するものと考えられた。
|