研究概要 |
フッ素のう蝕抑制効果は,初期のう蝕病変における低濃度での再石灰化によって発揮されることが最近示唆されている。本研究の目的は,人工唾液中に放出されたフッ素が牛歯歯質におよぼす影響を検討することである.被検材料としてFuji II LC(II LC), Vitremer(VT)とDyract(DY)の3種類のグラスアイオノマーセメントを用いた.各材料から8つの円柱試料(高さ3mm,直径5mm)を作製し,種々の条件で2mlの人工唾液の入ったプラスチックビーカー中に37℃で静置保存した.この条件とは,1)エナメル質,2)酸蝕したエナメル質,3)象牙質,4)酸蝕した象牙質である.1週間後に円柱試料と歯質試料を取り出し、別のプラスチックビーカーに移し代えた.この操作を10週間にわたって繰返し,保存溶液中のフッ素とカルシウム濃度(ppm)をイオンで電極で測定した.フッ素とカルシウムの累積量を算出し,これらにおよぼす保存環境と材料の影響に関して3元配置分散分析を行った.フッ素に関しては歯質の種類と材料の種類に有意差が認められた.放出フッ素量の平均値はエナメル質存在下のほうが象牙質よりも有意に多く,またVTとIILCのほうがDYよりも有意に大きかった.一方カルシウムに関しても,歯質の種類と材料の種類に有意差が認められた.残留カルシウム量の平均値は象牙質存在下のほうがエナメル質よりも有意に大きく,またDYではIILCやVTよりも有意に大きかった.フッ素とカルシウム量との間には負の相関(r=-0.64,n=24)が認められたEPMA分析とマイクロラジオグラムの観察からフッ素の取込みとミネラルの沈着は象牙質と酸蝕面のほうが大きかった.これらの結果から,グラスアイオノマーセメントのフッ素除放能は歯頸部修復とそのう蝕再発防止に効果的であることが示唆された.
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