研究概要 |
N-およびS-イリドの[2,3]シグマトロピー転移反応において、分子内に2種類の反応点(allyl基とbenzyl期)が存在する場合,N-イリドは反応選択性が乏しく、S-イリドは選択的にallyl基側に転移した。このイリドの反応性の違いについて分子軌道法を用いて解析し、計算による反応予測の可能性を検討した。 イリドおよび反応遷移状態の構造ならびに反応障壁エネルギー値を種々の分子軌道法で解析した。半経験的分子軌道法ではこの反応挙動の原因を説明できる結果を得ることができなかった。電子相関を考慮した計算法によって実験結果と矛盾しない計算結果が得られた。B2LYP/6-31G^*レベルの計算でN-イリドの遷移状態はいずれも早い遷移状態であり、S-イリドの遷移状態は遅い遷移状態であることが明らかになった。この遷移状態の差が反応選択性を左右している。その原因は窒素とイオウでは孤立電子対の有無がイリドの反応性に大きく影響し、その反応性の強弱が遷移状態に影響していることであると示した。化学種の反応性が遷移状態に影響することはEvans-Polanyiの提案であるが、実際に実験反応とその反応の計算によってその提案を実証することが出来た。イリドの反応性を調べる過程で、スルフォニウム塩の安定性について、イオウの孤立電子対と置換基であるフェニル基のπ電子間で大きな相互作用があることを発見した。この現象を分子軌道法で解析し、その影響を定量的に解析することに成功した。
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