研究概要 |
今日,各種疾病の治療のために多種多様の天然薬物が用いられているが,それら大半は作用機序はおろか活性物質本体さえ未詳のまま残されている.我々は,植物に比し化学的研究が立ち遅れている動物を基原とする生薬に着目しそれらより新たな生物活性を有する医薬リード化合物の発見を企図とした. 1.「地龍」由来の脂質よりグリセロリン脂質(4種)と中性糖脂質(4種)を単離し,それら構造を決定した. 2.「イシワケイソギンチャク」の総脂質画分を精査し,グリセロリン脂質(10種)とともにサイクリックアセータール型ホスファチジルエタノールアミン(5種)を得た.後者は,今日までプラズマローゲンから副生したアーティファクトと見なされてきた化合物群であるが,これらが本来イソギンチャクに存在している事実が証明され,従来説が覆えされた. 3.「蝉退」よりN-acetyldopamineの二量体に相当する1,4-benzodioxane誘導体を単離し,それら絶対配置を含む全構造を決定した.これらは,節足動物表皮のcuticule tanninとして知られ,動物由来の光学活性な1,4-benzodioxane類の最初の単離例である.本生薬は,N-acetyldopamineとともにこれら二量体を多量含有することから,本生薬の交感神経節遮断作用ならびに鎮静作用は,これら化合物群に起因することが強く示唆された. 4.「蜈蚣」の成分研究を行い,新規なquinoline sulfate体(2種)を得,それら構造を解明した.今後,各種生物活性評価を実施する. 本研究により,動物には植物から得られるものとは異なるカテゴリーに属する新規な化合物群の存在が明らかとされた.無脊椎動物をはじめとする各種動物生薬は,21世紀の医薬開発における天然物化学分野に残された最後の宝庫といえよう.今後,本研究の更なる進展を期す.
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