研究概要 |
アミノ酸配列の相同性は高いが,エステル加水分解活性の異なる2種類の触媒抗体6D9,および9C10について安定同位体標識Fabを調製しNMR解析を行った.新規に開発したNMR測定法により,基質およびTSA結合における,ヒスチジン側鎖のプロトン解離状態,および互変異性体の決定などを行ったところ,His27d(L)がTSA結合時にTSAのリン酸エステルの酸素原子との間に水素結合を形成していることが明らかとなった.さらに,基質およびTSAに存在する2つの芳香環について,高活性6D9抗体は両芳香環の相対位置を厳密に認識するが,低活性の9C10抗体は一方の芳香環の認識が甘いことが判明した. 一方,触媒抗体7C8は,単なる四面体型中間体の安定化以外の因子が重要であることが指摘されている.今回中性〜酸性領域における反応速度のpH依存性を調べたところ,pH4.5付近に変曲点が存在した.また,7C8結合時における,エステル中心の炭素の化学シフトのpH依存性を調べたところ,pKaが4.6を有する解離性アミノ酸残基が反応部位に影響を与えていることが明らかとなった.7C8の安定同位体標識を行いpH滴定実験などにより,相当する7C8の解離性アミノ酸残基を調べたところ,His92(L)のpKaが5以下であり,触媒反応速度に影響を与えるアミノ酸残基であることが判明した.現在His92(L)の関与する反応機構を明らかにするため,低温での反応中間体検出実験を進行中である. これまでに得られた構造生物学的知見をもとに,反応機構の異なる高活性触媒抗体6D9,7C8の触媒能のさらなる向上,および両者の特長を生かした,ハイブリッド触媒抗体の作製を目指し,大腸菌によるFv発現系の構築を計画した.現在6D9-Fvについては可溶画分における発現が可能となり,精製条件の検討を行った結果,純度の高いFvを得ることが可能となった.
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