研究概要 |
我々は、血管腔区画で発生する活性酸素に相対する血管内皮細胞フロントラインにおいて,ゾーンディフェンスラインを形成しているextracellular-superoxide dismutase(EC-SOD)に注目して研究を進め,血清中EC-SODレベルが腎疾患患者において高値を示すことを明らかにしてきた.本研究では,EC-SODが腎疾患の発症・増悪を反映するマーカーとなり得る可能性を明らかにするために,腎でのEC-SODの発現調節機構及びEC-SODの遺伝子変異の腎疾患病態に対する影響について検討した.(1)臨床化学的研究により,尿中EC-SODは腎糸球体により漏出したものではなく,尿細管近傍の線維芽細胞から分泌されたものである可能性が示唆された.また,培養細部を用いたin vitro実験及びEllsworth-Howard試験(in vivo試験)の結果から、EC-SODの発現がadenylate cyclase-cAMP系によって制御されている可能性が示唆された.(2)EC-SODにはそのヘパリン結合部位内のArg213のGlyへの置換を引き起こす遺伝子変異が存在する.この変異の出現は,健常人の場合6.5%であったのに対し,透析患者では13.8%と2倍の頻度を示した.また,糖尿病性腎症患者では,透析導入3年後より変異EC-SODの出現率が低下し,透析歴8年以上の患者ではEC-SOD変異をもつ患者が認められなかった.この結果から,EC-SOD変異を有する患者の方が腎症の予後が不良で,特に糖尿病性腎症患者ではその影響が強く現れる可能性が示唆された.EC-SODは血管内皮細胞表面に存在し,血管腔内で発生する活性酸素から血管壁を防御しているため,変異に伴うEC-SODの内皮細胞結合性の低下は,活性酸素に対する生体防御機能の低下をもたらすものと考えられた.(3)血清中EC-SODレベルが加齢や血管系病態の進展に伴う抗酸化機能の変化を鋭敏に反映していること,EC-SODの存在様式の変動が腎疾患以外に循環器疾患,糖尿病などの発症・増悪にも関わっていることが明らかとなった.
|