研究概要 |
Na^+,K^+-ATPaseは、動物細胞内のNa^+,K^+を能動輸送するイオンオンプである。私はオリゴマイシンがNa^+輸送のみを特異的に阻害することを見出した。この発見は、Na^+,K^+の輸送機構が単一ではないことを示唆しているので、オリゴマイシンを用い、Na^+,K^+輸送機構に関する研究を行った。 オリゴマイシンは、形質膜の他のP型イオンポンプ(H^+,K^+-ATPase,Ca^<2+>-ATPase)には影響を与えなかった。Na^+,K^+-ATPaseの構成サブユニットのうち、α鎖の1、2番目の膜貫通ペプチドを含むN末端側の領域にオリゴマイシン結合部位があることがわかった。第5、6番目の膜貫通ペプチドはトリプシン分解で容易に膜から遊離すること、その原因はこの領域に存在するプロリンにあることが確認された。これらの成果と、他の研究者の成果を組み合わせると以下の仮説が提出できる。α鎖4-6番目の膜貫通ペプチド内には、イオン輸送に関与するアミノ酸が存在する。Na^+が輸送される時、ATPの水解エネルギーによってこのコンホメーションが大きく変化する。このとき1、2番目の膜貫通ペプチドのコンホメーションも連動して変化する。オリゴマイシンはこの変化を阻害する。そのためにNa^+輸送が阻害される。これらペプチドのコンホメーションが元に戻るときK^+が輸送される。オリゴマイシンはこの変化を阻害しない。 この仮説を確かめるために、K^+のみの挙動を調べる必要がある。そこでNa^+,K^+-ATPaseの部分反応であるK^+依存性ホスファターゼ活性を、オリゴマイシン、Na^+の存在下で解析した。Na^+による阻害活性はオリゴマイシン添加で増強すると予想されたが、Na^+:K^+の濃度比が10:1以上になると、オリゴマイシンによる活性上昇が観察された。この時、Na^+,K^+-ATPaseに対するK^+親和性の上昇が観察された。K^+依存性ホスファターゼ活性は細胞外のK^+結合部位(and/or Na^+遊離部位)で起きていると考えられているので、おそらくオリゴマイシンはこの部位におけるNa^+とK^+の相互作用に影響を与えたと考えられる。さらなる検討を継続中である。
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