研究概要 |
私共は最近,ラット初代培養肝細胞を用いて,グルコース濃度が上昇すると,解糖系律速酵素の1つであるグルコキナーゼ(GK)は細胞核から細胞質へ移行し,低下すると細胞質から細胞核へ戻ることを示し,この現象が肝グルコース代謝の調節に関与する可能性のあることを指摘した。本研究の目的は,この代謝調節機序が実際に働いていることを明らかにし,さらに糖尿病における肝グルコース代謝異常にGKの細胞内分布変化の障害が関わることを示すことである。 本研究の成果は下記に示すとおりである。 1.GKの細胞質内と細胞核内分布を定量的に評価する方法を開発し,それを用いてGKの移行による細胞質内分布の増加がグルコキナーゼ活性(D-[2-^3H]グルコースを用いての測定)の上昇とよく一致することを見い出した。この結果は,GKの細胞内移行が肝糖代謝調節機序として実際に働いていることを示すものである。 2.2型糖尿病モデルラットであるGoto-KakizakiラットとOLETFラットの初代培養肝細胞では,高濃度(20mM)グルコースによるGKの細胞核から細胞質への移行が低下していることがわかった。これは,GKの移行不全が2型糖尿病の肝糖代謝障害の原因となっていることを示唆する結果である。 3.GKの細胞内移行を促進する化合物の検索をしている過程で,経口血糖低下剤として使われているトログリタゾンが肝細胞のアポトーシスを起こすことを見い出した。この作用は,本化合物の重要な副作用として知られる肝障害と関係のある可能性がある。
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