研究概要 |
抗HIV活性等の興味深い生物活性を示すマクロカルパール類は,疎水性のアロマデンドラン部と親水性のイソペンチルフロログルシノール部が前者の11位と後者のベンジル位でカップリングしたものであり,全体として水溶性である.3環性エノンと,キラルなベンジルカチオン等価体として合成した6置換ベンゼンクロム錯体のベンジル位でのカップリング反応の立体化学を完璧に制御し,マクロカルパールCの最初の全合成を達成した.本法では,イソブチル基を他の様々なアルキル基に変えることが可能であり,また,芳香環部のメトキシ基の選択的脱メチル化によりフェノール性水酸基の数を変えることも可能であり,これらにより親水性の度合いを変化させた化合物の入手が可能になるものと思われる. また,本全合成研究の途上で見いだした芳香環上のメトキシ基のラジカル的イプソ置換反応は,大きな合成化学的価値を秘めており,様々な生物活性物質の合成への応用が期待できる.本新反応の適用限界を明らかにする目的で,様々な基質に対し検討を行ない,以下のような興味深い知見を得た. 計算化学的分子モデリングによる解析の結果、生じたラジカルとベンゼン環とがかなり近接していることが判明した.モデル化合物で距離と反応性について検討したところ,本反応はラジカルと反応点の距離に大きく依存する反応であることが明らかになった. そこで逆に考えれば,生じたラジカルと反応点を近づければ本反応を生起することが可能になると考え,その手段としてルイス酸性を有し,かつケトンからのケチルラジカルを生成させることができる2価のサマリウムを用いて検討したところ,予想通り本反応が進行することが明らかになった.即ち,これまで殆ど未知であったメトキシ基を脱離基とする本ラジカル的イプソ置換反応は,距離が近くなれば,即ち近づけることができれば容易に生起する反応であることを明らかにした.
|