研究概要 |
一酸化窒素(NO)供与剤を用いて生体膜投与促進を調べるためのモデル薬理といくつかの高分子薬物(FITC-dextron(MW,4000),インスリン(MW,6000)、ヒト顆粒球コロニー形成刺激因子(rhG-GSF,MW,19000)、ヒト胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG,MW,39000)等を選び、in vivoで小腸、直腸又は鼻腔粘膜における高分子薬物の生体膜透過性に及ぼすNO供与剤の影響を検討した。主な新知見は下記のとおりである。 1)NOの吸収促進作用に及ぼす高分子薬理の分子量の影響 ウサギ直腸投与によりNO供与剤(SNAP,NOR4等)がインスリンやFITC-dextron4000の吸収を増大させることをはじめて見出した報告したが(Pharm. Res. 15, (1998), 870-876)、これらの薬物とrhG-GSFおよびhCGの場合と比較した。分子量約19000のrhG-GSFの場合はインスリン等の投与時と同様のSNAP量で、rhG-GSFが明らかに吸収促進されたが、分子量約39000のhCGのでは吸収促進の程度が小さくなることが見いだされた。他の吸収促進剤(例、デカン酸ナトリウムなど)にくらべて、NO供与剤の吸収促進作用は分子量の影響を受けやすいことが示唆された。 2)粘膜部位の違いによるNO作用の評価と吸収促進作用についてのNO代謝物の関係 直腸以外に小腸、鼻腔粘膜部位においてもNO供与剤(SNAP)が高分子薬物の吸収促進に有効であることが明らかになり、坐剤以外に鼻腔内適用製剤の可能性が有望となった。NO供与剤適用により生起する吸収促進作用がNO自体によるのか、またはNO代謝物(peroxynitrite(PN)など)の作用によるのかを明らかにするために、NO消去剤やPN消去剤をNO供与剤に組合せて投与試験した結果、NO自体が吸収促進に大きな役割を演じていることが示唆された。(J. Drug Targeting, 2000, 印刷中)る。なお、NO代謝物の関わりも否定できないため、今後詳細な検討を継続する。 3)NO供与剤による局所刺激性の評価 培養細胞系での毒性試験およびin vivo投与試験で直腸や鼻腔の粘膜部位を形態学的に観察した結果、デカン酸ナトリウムより局所刺激性が小さいことが明らかとなった。 平成10〜11年度において、NO生理作用に基づく新規薬物吸収促進システムの開発の基盤となる有用な新知見を数多く得ることができた。しかし、NO作用機序については、また不明の点が多く、作用機序のための危機分析法特に画像解析法による研究課題が残されており、今後さらに研究を継続する予定である。
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