本研究の目的は、最近開始された遺伝子治療のより安全なベクター系の開発をすることである。細胞本来が持っている複製単位を利用したミニ染色体(人工染色体)を構築し、その中に治療に用いる遺伝子を導入する。そのミニ染色体を遺伝し治療のベクターに利用する事が目標である。 最初にハムスターの複製開始点ori-βを含む18kbのプラスミドの両末端にテロメア配列を付加したものを一種の人工染色体として構築し、その機能を複製活性の高いアフリカツメガエル卵抽出液中を用いて解析した。両末端に結合させたテロメア配列は、直線状DNAが連結するのを阻害し、その長さが長いほど連結活性を阻害し、直線状DNAとして安定になった。また、モノマーの直線状DNAは複製しにくく、連結して長くなったDNAは複製した。また、複製が開始している位置をcompetitivePCRで解析し、ori-βから開始している割合が多いことを示すデータを得た。マウスやサルなどの哺乳類細胞へのこの人工染色体を導入しこの挙動を調べた。連結活性は低く短いテロメア配列でも数日間は安定に存在したが複製できなかった。 以上より、人工染色体の要件として、ある程度DNAの大きさが必要であることが示唆されたので、遺伝子操作が可能な範囲でより長いDNAの人工染色体の構築を試みた。デュシャンヌ型筋ジストロフィーの病因遺伝子が存在するヒトの21番染色体長腕側の約200kbに及ぶ領域を組み込んだいくつかのP1プラスミドを利用し、約300塩基対のテロメア配列を付加させ、新子人工染色体として構築した。ヒトをはじめとする高等真核細胞では20-40kb間隔で複製開始点が存在しているため、これらのP1ファージには複製開始点が含まれていると考えられる。 この人工染色体をヒト培養細胞に導入し、現在機能するかを検討中である。
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