研究概要 |
モルヒネの連用により鎮痛効果に対する耐性は速やかに形成されるが,一方でがん性疼痛患者に対する連用では耐性が形成されにくいとの臨床報告もなされている。本研究では,これらの相違に起因する機構を解明するため,一過性疼痛刺激を与える掉尾試験[TP〕法と持続性疼痛刺激を与えるホルマリン[FL〕法を用い,モルヒネ連日投与による鎮痛効果の変容を,オピオイドの作用部位である中枢上位と脊髄に分けて検討した。また,k-,δ-アゴニストであるU-50,488H,DPDPEそれぞれについても同様に行った。その結果,TP法ではモルヒネ,U-50,488H両薬物において皮下,脳室内,脊髄腔内いずれの投与経路においても経日的な鎮痛効果の減弱,すなわち耐性の形成がみられた。一方,FL法では両薬物とも脊髄腔内連日投与で耐性形成が認められたものの,皮下および脳室内投与では耐性は形成されなかった。DPDPEはいずれの方法でも耐性が形成された。一方,慢性疼痛の発現に情動が関与することから,ホルマリン法で情動の役割を検討した。抗不安薬ジアゼパムはホルマリン疼痛反応を減弱した。 以上の結果から,一過性疼痛にはモルヒネは速やかに耐性を形成するが,持続落痛に対してはモルヒネ耐性は形成されにくいことが分かった。この成績は,がん性疼痛患者におけるモルヒネ耐性不形成機構を支持するものであった。また,持続疼痛の抑制作用には,μ受容体だけでなく,k受容体を介して発現する鎮痛効果にも耐性が形成されないことが示された。一方,一過性疼痛抑制作用におけるこれら薬物の耐性形成には中枢上位,脊髄両部位の関与が,持続疼痛における耐性不形成機構には中枢上位の関与が大きいことが示唆された。慢性疼痛の発現に不安・恐怖などの情動の関与するとの見解を動物実験で直接証明することができた。
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