研究概要 |
臨床的に有効性が認められている大脳皮質第II次体性感覚野(S-II)電気刺激誘発鎮痛を検出しうるラットモデルを確立し,さらに痛みの情報伝達に関与するとされるNOの合成酵素阻害薬がS-II刺激誘発鎮痛にどのような影響を及ぼすかを検討した. 初年度(平成10年度)はまず,S-II刺激鎮痛を検出しうる動物モデルの確立を目的とし,機械的刺激,熱刺激および化学的刺激に対するラットの侵害受容反応におよぼす効果を検討した.S-II刺激は前2者ではほとんど効果を示さなかったが,ホルマリン誘発化学的侵害受容反応を抑制した.次いで,この抗侵害効果が神経型NO合成酵素阻害薬である7―ニトロインダゾールとの併用によって増強されることを見出した. 次年度(平成11年度)は,このS-II電気刺激と7-ニトロインダゾールの併用による抗侵害効果の発現機序について検討した.ラットの足底にホルマリンを投与すると,L4,L5脊髄後角表層にc-fosの発現が誘発された.これに対して,S-II電気刺激と7-ニトロインダゾール5mg/kgはそれぞれ単独では無効であったが,両者を併用するとc-fosの発現が有意に抑制された.また,ホルマリン疼痛法において認められる両者併用による抗侵害効果は,オピオイド拮抗薬であるナロキソンあるいはα―アドレナリン受容体拮抗薬であるフェントラミンの全身性投与によっては影響されなかったが,セロトニン拮抗薬であるメチセルギドの脊髄内投与により第1相における鎮痛効果が有意に抑制された. 以上より,S-II電気刺激は脊髄への下降性抑制神経系,特にセロトニン神経系を活性化することにより脊髄における痛みの情報伝達を抑制し鎮痛効果を発現する可能性が示唆された.
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