研究概要 |
Thrombospondin-1(TSP-1)はもともと血小板α顆粒より産生される分子量約450kDaの糖蛋白として報告されたが,現在では繊維芽細胞,血管内皮細胞など種々の細胞での産生が知られている.最近TSP-1に対して数種のモノクローナル抗体が作製され組織免疫染色などに用いられているが,その特異性など不明な点が多い.そこで我々はまずTSP-1に対する新たなモノクローナル抗体の作製を試みた.TSP-1を精製したあとBALB/cマウスを免疫し,細胞融合によりハイブリドーマを作製した.最終的にIgM抗体6種,IgG1抗体4種,およびIgG3抗体3種が得られた.エピトープを解析した結果,いくつかの特異性の違うモノクローナル抗体が確認され,癌患者血清中のTSP-1レベルを測定できるものと癌の組織検索に有用であるものとを碓認した. 一方, TSP-1は細胞外マトリックス(ECM)に分類され,炎症や傷害部位では大量に放出されて多彩な接着部位を持つため多くの物質に結合する.またTSP-1はTGF-βの主な生体内活性化物質である.これらのことからTSP-1の免疫系に与える影響に興味が持たれる.そこで我々はTSP-1の抗原提示細胞(APC)およびAPCとT細胞の反応系に対する影響を,分泌されるサイトカインを指標にして調べた.その結果,可溶型のTSP-1はPHAで刺激された系でT細胞の増殖を抑制し,またAPCによるインターロイキン-10(I1-10)の産生を亢進させ,炎症反応や免疫反応の場において,反応の終息に重要な役割を担っていること世界で初めて証明した. 以上の結果は,TSP-1がある種の癌で腫瘍マーカーになる可能性を示唆するとともに,生体におけるTSP-1の機能の一つを証明するものである.
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