研究概要 |
Max Planckは1890年前後にそれまでの平衡熱力学の研究から非可逆過程の物理学的研究に移る. 熱電気現象と電解質溶液間の電位差に関する研究がそれであるが, 本研究において,その移行の具体的な流れが明らかにされた。これは,非平衡状態から非可逆過程を経て定常状態へと移行する物質系を対象としていることから,その過程を担う物質的な要素的過程,その分子論的描像その過程を記述する方程式系の定式等の点で,Planckにとっては従来の理論展開の方法と対象の捉え方からの重要な転換であった。このことを明らかにすることによって,1890年代半ばに開始されたPlanckの熱輻射研究―エネルギー量子仮説の導入による輻射エネルギー分布の導出という画期的成果に到る―が,この1890年前後の研究上の転換―非可逆過程の物理的研究への転換の流れの中に位置づけられることが具体的に解明された。一方,Pierre Duhemは1900年代に平衡熱力学の研究から非可逆過程の熱力学の定式化を試みる方向へと研究を移行させていくが,それは熱力学第2法則を非平衡状態を含む系に対して等式で表現することであった。この研究上での移行の過程が明らかになったが,彼の定式化は現代における非平衡熱力学の端緒的成果として位直づけられる。このようにPlanckとDuhemの物理学研究は多くの類似点を持っているが自然・物質観,科学観,方法論に関して,とりわけ20世紀以降対立した側面を持つようになる。こうした両者に見られる物理学研究と科学思想との関連について,エネルゲティーク対アトミスティークの論争との関わりを含めて,幾つかの局面が明らかにされた。 これらの研究成果は,2編の論文として近々学術誌に投稿の予定である。
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