研究概要 |
本年度は,日本の工場統計,工場通覧,貿易統計,各種機器カタログなど基礎的資料の解析を中心に行い,これら資料をパソコンに入力してデータベースとした。また独自な産業部門として科学機器業界が確立される過程について実態解明するための検討を行った。その結果,以下のような点を確認できた。 (1) 欧米からの導入という形で科学研究が始まったわが国では,科学教育システムとしては欧米に先行する形で整備された面があるが,科学機器製作など実験技術部門は輸入品に依存し,教育用あるいは医療用機器を除いては国家的な育成策さえ取られることはなかった。 (2) 第1次大戦は「国産化」推進に一定の役割を果たすが,この期の重化学工業の急速な展開が計器類など産業部門での科学機器の大幅な需要増大をもたらし,その結果として科学機器業界は形成されたと考えられる。つまり科学研究部門の発展が高度な科学機器製作を要請したわけではなく,科学研究部門の実験技術は基本的に輸入に依存する体制のまま残された。 (3) そうした中で注目されるのが,理化学研究所の工作室である。研究を支える補助部門として創設時から設置されるが,工作室の存在が理化学研究所の独創的研究を支えたといえる。しかし大学に於ける工場部門などこうした研究機関内部の技術部門の実態を明らかにし得る資料は少なく,資料発掘が今後の課題として残された。 (4) こうした日本の状況は欧米とはかなり大きく違っているが,欧米で科学機器産業がほぼ形成されていた時代に,大量の輸入科学機器の間隙を縫う形で日本の科学機器産業は形成されたともいえる。そうした中で,一般生産技術の導入が先行し,科学機器製作も一般生産技術の側から始められた。ここでも,日本の科学研究がその内容はともかくも生産技術分野の下に置かれてきたといえる。
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