研究概要 |
本研究では,動脈硬化形成に深く関与するLDLの酸化変性に対して,HDLが有する抑制効果,すなわち抗酸化機能が,運動トレーニングにより増強されるか否かについて検討した. (1)3ヶ月間の有酸素的な運動トレーニング後に,血清,LDL両者共lag timeで評価した被酸化性が低下した.また運動トレーニングによる血清HDL-C値の変化と血清lag timeの変化との間には有意な正相関が認められ,HDLの量的な増加が血清の被酸化性を低下させる可能性が考えられた. (2)LDLの酸化変性を抑制するHDL結合性の抗酸化酵素PON1について, paraoxonase活性とarylesterase活性を運動トレーニング前後で測定したところ,運動後にparaoxonase活性あるいはarylesterase活性が上昇した群でLDL被酸化性の明らかな低下が認められた.また運動トレーニングによるarylesterase活性の変化とLDL-lag timeの変化との間には有意な正相関が認められた. (3) In vitroにおいて,単位HDL蛋白あたりのLDL酸化抑制効果に対する運動トレーニングの影響について検討したところ,LDL中の脂質,蛋白の酸化変性に対しHDLは明らかな抑制効果を示したが,運動トレーニング前後のHDLで差は認められなかった. 以上より,有酸素運動トレーニングは血清およびLDLの被酸化性を低下させ,その機序の1つとしてHDL,特にHDL結合性のPON1が関与しているものと推察された.また単位HDL蛋白あたりの抗酸化機能で見た場合には,運動によるHDLの質の向上は明らかでなかったが,HDLのmassの増加によりHDLの示す抗酸化機能もトータルでは増強し,酸化LDL生成抑制効果を示すものと考えられた.すなわち,HDLは運動の抗動脈硬化作用において,抗酸化の面からも寄与する重要な因子であることが本研究により明らかとなった.
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