研究概要 |
本研究の目的は,心理学的変数の中でもメンタルヘルスやストレスに関連する感情に焦点をあて,1)身体運動に伴う感情変数の種類を明らかにし,2)身体運動に伴う感情を高めるための心理的方略の種類を探ることであった. 平成10年度においては,身体運動に伴う感情の概念定義,すなわち身体運動やスポーツ活動に関わって変化する感情とは何かを,過去の感情研究を概観することによって明確にした.平成11年度においては,平成10年度において行った基礎研究をもとにして,身体運動の心理的効果を測定する尺度として早稲田大学運動関連感情調査尺度(Waseda Affect Scale of Exercise and Durable Activity : WASEDA)を開発した.WASEDAは,否定的感情4項目,高揚感4項目,落ち着き感4項目の3下位尺度からなり,それぞれの下位尺度の点数は下位尺度を示す項目の合計得点として算出される.本研究では,この尺度の信頼性および妥当性の検証も合わせて行った.また,この尺度を使用し,身体運動が与える心理的効果に関して,以下のような共通項を発見できた.1)スピードや重量などの物理的な運動強度の影響は少ない.2)最大酸素摂取量や心拍数で測定される生理的な強度の影響は少ない.3)物理的,生理的運動強度に対する主観的な努力の程度の影響は少ない.4)その時に行っている運動負荷を,どう感じているかに注意を向け,その内容を肯定的に認知すると効果が大きい.これらの項目をまとめると,運動・スポーツによって心理学的な恩恵を得るためには,「今行っている運動のタイプ,強度は何か」知ること(主観的運動強度)ではなく,また運動による生理・生化学的反応が直接影響を与えるのではなく,「今行っていることをどう感じているか」という認知的評価が重要なポイントであると思われる.今後,心の健康作りとしての運動処方を考える上で,この認知的評価の変容法に関する研究を進める必要がある.
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