研究概要 |
本研究では,レドックス調節因子で抗酸化ストレスタンパク質としても機能するストレス誘導性のチオレドキシン(TRX)が一過性の運動後と運動トレーニングでどのように発現するかを検討した。30分間の一過性の水泳運動では,末梢血単核細胞質画分と核タンパク質画分のTRXは,運動後12時間に増加して24時間までその傾向が続いた。タンパク質が酸化ストレスによって変性したカルボニルタンパク質は,運動後12時間で最も高い値を示した。これらの結果から末梢血単核細胞のTRXは,一過性の運動後12時間から24時間に発現が増加することが明らかになった。血漿IL-6が運動後24時間に最も高い値を示したのは,TRXの発現増加が関与しているのかもしれない。次にマウスに4週間のトレッドミル(25m/min,60分間/日,5日間/週)運動を負荷した後に,腓腹筋とヒラメ筋の細胞質画分,核画分のTRXとRedox factor-1(Ref-1)の発現を検討した。運動トレーニング群ではTRXは腓腹筋の細胞質画分で有意(P<0.05)に増加した。しかし,ヒラメ筋の細胞質画分では有意(P<0.05)に減少した。骨格筋でTRXの発現に違いがみられた要因は明らかではないが,筋の代謝様式の違いによる酸化ストレスの関与が示唆される。Ref-1は両筋肉の核画分で有意(P<0.05)に減少した。Ref-1はDNAの修復酵素としても働くことより,DNA修復,レドックス調節,他の遺伝子発現などに働いた結果ではないかと考えられる。本研究の結果から,一過性の運動もしくは運動トレーニングによってTRXやRef-1のような抗酸化ストレスタンパク質は,その発現に影響を受けることが明らかになった。
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