研究概要 |
本研究では暑熱・寒冷反応の発育・老化特性および性差を検討するため,8つの実験が実施された。それらの要約は以下の通りである。(1)高齢者の緩慢な発汗反応は,中枢の活動性低下のためではなく,たぶん皮膚温度感受性の低下に起因すること,暴露後半でみられた大腿発汗量の低下は,汗腺それ自体の萎縮やコリン感受性の低下に起因すること,が明らかにされた。(2)高体力高齢者のみならず標準的体力高齢者でも,同一の相対的運動強度が用いられるときには耐暑性や順化による耐暑性の改善度はほとんど損なわれていなかった。さらに,順化によって導かれた変化はVO_<2max>の加齢的低下と関連するように思える。しかし,メタコリンでの単一汗腺あたりの汗出力や順化に伴うその改善の程度はVO_<2max>とともに年齢にも関連したことから,コリナージック刺激に対する感受性は老化に伴い低下することが示唆された。(3)暑熱暴露時に躯幹部でみられた子どもの高い皮膚血流量は,交感神経のtoneの低下が大きく,発汗神経由来の血管拡張物質に対する感受性が高いことに起因することが示唆された。(4)運動強度の増大に伴う発汗量の増加には老化の影響がみられ,高齢者では大腿部で単一汗腺あたりの汗出力の増加が小さいため発汗量の増加が小さかった。(5)広範囲の皮膚面の血流量をレーザードップラー式画像化装置で測定した結果,胸部では有意な年齢群差がみられなかったが,大腿部では高齢者が有意な低値を示した。そのため,老化に伴う皮膚血管拡張能の低下は全身同等ではなく,大腿部の老化が胸部より先行することが強く示唆された。(6)男性に比し女性は発汗よりも皮膚血管拡張に依存した熱放散特性を有し,その傾向は特に大腿で顕著だった。女性の大腿で観察された皮膚血流量の大きな増加は,皮膚血管拡張感受性の亢進に,大腿を除く全部位で観察された女性の低い発汗量は,発汗中枢活動のためではなく,汗腺の大きさand/orその感受性を含む末梢機構の性差に,それぞれ起因した。(7)発育・老化が寒冷血管拡張反応に影響するのか否か検討した結果,思春期前児童と高齢者の寒冷血管拡張反応は若年成人より劣ることが示唆された。(8)寒冷反応の老化特性を寒冷反応の経年的変化(8年間)から検討した結果,老化は皮膚血管収縮能を低下し,その代償として熱産生量が亢進するものの,深部体温保持能の低下を招来することが示唆された。
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