研究概要 |
日常生活における有酸素性持久能力の指標である最大酸素摂取量や無酸素性作業閾値(AT)の測定は,被験者に過度の負担をかける.さらに,これらの指標では,現実の生活場面に多く見られる身体活動の開始時や,運動の強さが急に変化する場合の有酸素性持久能力を評価することに限界がある.このような非定常状態における生体機能を評価する指標として,最近では,肺の酸素摂取応答動態(kinetics)が注目されている.しかし,AT以上の強い運動時の酸素摂取の速やかな応答(急成分)を損なう因子(制限因子)が酸素運搬能力なのか,あるいは運動筋の酸素利用能力なのか,不明である.また,有酸素性持久能力の新しい指標である緩成分の生理学的メカニズムについて検討した研究は見あたらない.本研究では,高強度の運動における酸素摂取応答の調節を検討した。 平成12年度は、筋肉量が高強度の運動開始時の酸素摂取動態に及ぼす影響について考察した。結果として,筋肉量を半分にした片脚自転車運動(モーターによる脚引き上げ)の酸素摂取動態は、両脚自転車運動のそれと同じであった。筋肉量の大小にかかわらず、酸素摂取動態が同じであることは、高強度の運動における酸素摂取動態を規定する因子が、中心循環による酸素供給ではなく、運動筋内部の血流分布、ないしは酸素利用であろうと示唆された(Koga et al.,2001)。さらに、AT以上の強い運動を用いて、高温ストレス条件における実験を実施した。常温条件に比べて、高体温における高強度の運動では皮膚血流量との競合から運動筋への酸素供給の低下が仮定される。この実験から、高強度の運動における酸素摂取動態を規定する因子、および酸素摂取緩成分のメカニズムについて考察した。
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