研究概要 |
グローバルな環境変動に陸域がどのような規模と速度で反応してきたかを,長江デルタ域をモデルに研究を進めてきた。長江デルタ南西部にある太湖とその周辺域で採取した堆積物コアを用いて様々な分析を行い,環境変動の速さを検討するための基礎データの蓄積を行なった。放射性炭素による絶対年代測定に加え,堆積物コアの残留磁化から古地磁気永年変化曲線を復元し,日本の古地磁気永年変化曲線(Hyodo et al.,1993)と比較することにより,より詳細な年代軸をコア試料に設定することができた。古環境分析のためには,花粉・珪藻,有孔虫・貝類等化石の分析,帯磁率・土色測定,粒度分析,化学分析等を行なった。 以上に述べた分析結果より,太湖域では,1万年以前に明瞭な海進がおき,5000年前にかけて,杭州湾側から太湖域に海が侵入していたことが明らかになった。9000年前頃までは,海進に伴う急速な堆積作用の結果,堆積速度は1.8mm/yr程度あったが,その後,堆積速度は,1.3mm/yrにまで低下したことが明らかになった。また,5000年前以降2000年前にかけて,急激な湖面低下,あるいは離水が2〜3回にわたって起こったことも明らかになった。 珪藻分析や有孔虫分析結果は,完新世の海進・海退の傾向を同期して示したが,同一の試料でありながら両者で異なる環境を示す層準も見られた。このずれは急激な環境変動に対する生物種ごとの対応速度の違いを示す可能性があり,注目される点である。 今回の研究期間内では,個々のコアの古環境データの検討が中心になり,お互いの対応関係を明確にすることができなかったが,今後,獲得したデータのコンパイルを行なうことにより,太湖域の古環境の変遷をより明確にし,長江デルタ域での環境変動のモデルとすることが期待される。
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