研究概要 |
水系洗浄で効果的に油汚れを除去するための基本的情報を得るために,モデル洗浄系を作製した。基質には石英ガラス板を用い,γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)およびメチルトリエトキシシラン(MTES)を用いて表面処理を行った。基質表面のぬれ性および表面自由エネルギーを測定したところ,処理によりぬれ性と表面自由エネルギーの酸-塩基成分の減少が起こることがわかった。また,水中でAPTES処理基質は正に,それ以外は負に帯電していることがわかった。油汚れのモデルとしてアラキジン酸を用いた。水面上のアラキジン酸展開単分子膜の表面圧測定,並びにブリュースターアングル顕微鏡による観察を行い,固体凝縮膜をLangmuir-Blodgett(LB)法で基質に累積した。このモデル系を用いて各種水溶液中でアラキジン酸LB膜の超音波洗浄を行い,洗浄前後の基質の赤外反射吸収スペクトルから洗浄性を評価した。その結果,基質のぬれ性や表面電荷が洗浄性を支配しており,本モデル系が洗浄研究を行うのに有効であることが確認できた。また,界面活性剤やエタノールの濃度,並びに温度が増大すると洗浄率が増大し,従来の知見と矛盾しないことも確かめられた。次に,水晶振動子(QCM)法の金電極表面にアラキジン酸単分子膜を累積し,各種水溶液中で超音波洗浄を行った。洗浄前後のQCMの周波数変化からLB膜の洗浄率を評価したところ,温度効果,並びにアルカリ,エタノールおよび界面活性剤の添加効果が得られた。洗浄液の接触角と表面自由エネルギーを測定してアラキジン酸LB膜/基質界面への洗浄液の浸透に伴う自由エネルギー変化ΔGを算出し,実験結果を検討したところ,LB膜の洗浄性は基本的にΔG値に支配され,アルカリ共存下ではケン化除去が起こっていることが示唆された。さらに,LB膜を付着させたQCMに172nmのエキシマ紫外光を短時間照射すると,その後の水系洗浄が促進されることがわかった。
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