研究概要 |
近年,栄養過剰摂取による生活習慣病が問題となり,運動によるエネルギーの消費増大が推奨されている.運動には筋肉におけるエネルギー産生が重要であるが,筋肉のエネルギーは主にグリコーゲンの嫌気的および好気的酸化により行われる.グリコーゲンの分解にはまず,グリコーゲンフォスフォリラーゼ(Gpase)の作用でグルコースを産生する必要がある.また,肝臓や腎臓でアミノ酸から生成される糖も重要なエネルギー源となり,これらはアミノ基転移酵素により行われる.そこで我々はグリコーゲン分解とアミノ基転移に関わる酵素に注目し,これらがいずれもビタミンB6(B6)を補酵素とする酵素であることから,B6の栄養と運動のかかわりについて研究を進めた. B6栄養の異なるラットを用いて水泳による運動を負荷し,ラット組織のB6含量とアミノ酸代謝の代表格の酵素としてアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼおよびグリコーゲン加水分解に関わるGpaseの活性を指標として実験を行った.その結果,B6不含の飼料で飼育した場合,マイルドな運動を負荷すると,肝臓と筋肉でアミノ酸代謝が活発になり,ひ腹筋の白色部ではグリコーゲンの分解が進むこと,叉,B6不足によりアミノ酸代謝が異常になっても運動により,正常性を保とうとする能力があることが分かった.さらに,下限量のB6を含む食餌で飼育し,やや強い運動を負荷した場合には上記と同様に肝臓や筋肉でアミノ酸代謝が活発になる以外に,B6の排泄を節約して体内に貯留する傾向をうかがわせる結果を得た.以上より,運動を負荷することはB6の要求を明らかに高めると考えてよいこと,また,運動が非常にマイルドな場合にはB6の栄養が多少悪くても体を正常に維持しようとする能力が備わっていることがうかがえた.
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