研究概要 |
イギリスに始まる産業革命の進展とともに発展してきた技術教育は,イギリス,アメリカ,ドイツそれぞれの国において,非常に類似した発展過程をたどってきた.たとえばドイツにおいては,19世紀以降,実学的な諸学校において職業準備としての技術教育が実践され,また,イギリスにおいては,科学の応用的側面や実践的側面を扱う技術教育は,アカデミックな純粋科学と対峙する形で展開されてきた.一方アメリカにおいては,時代的に20世紀前後のこととなるが,職業学校において技術教育が急速に実践されることとなる. このように,技術教育は科学教育とは異なる概念として捉えられ,職業準備のための技術教育は,科学教育と一線を画してきた.しかしながら,この技術教育の発展過程においては,アメリカやドイツにおいては国家が強力に関与してきたが,イギリスにおいては国家は直接的関与をしてこなかったという違いも見られる.いずれにせよ,学校教育における科学教育そのものの位置がまだ不安定な19世紀においては,いずれの国においても純粋科学を学校に導入しようという努力の中で,技術教育との関わりはほとんど議論されてこなかったと言ってよい. 今日,技術教育と科学教育のインターフェイスが議論されるようになってきた背景には,急速な産業化・情報化社会の発展と,技術に対する新しい定義の付与があることは間違いない.すなわち,単にものづくりとして技術教育を定義するのではなく,技術に固有の問題解決の方法を教える教科として技術が定義されるようになってきている.そうであればこそ,科学教育が技術教育と関わりをもつ土台が形成される.過去になされてきた科学教育と技術教育の分離が,今日においては逆に,いかに両者の関わりを図るかという議論に変化してきていると言える.
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