中国語系学習者の聴解力不振の要因として、中国語の音韻干渉と中国の文化社会的規範の影響があるとの仮説をたてた。本調査研究ではまず、有声・無声破裂音の対立を持たない北京語話者と同対立を持つ上海語話者を対象に、日本語破裂音を範疇的に知覚する弁別能力と聴解力の関連を見た。その結果、以下の点を指摘した。 1.北京語話者は、上海語話者に比較して、日本語破裂音の有声性・無声性の弁別能力の習得が遅い。特に、/t/、/d/、/k/を含む音節は、学習期間が長くても習得できない傾向が強い。 2.北京語話者は、上海語話者より、音声談話理解のための聴解力も伸びが悪い。 3.北京語話者の誤聴の多い/t/、/d/、/k/を含む音節は、調査対象とした談話の約3分の一を占めており、日本語談話において、破裂音の弁別はきわめて重要な言語能力であると推測された。 4.北京語話者は中国語系学習者の大半を占めるため、中国語系学習者の聴解力不振の1要因として、有声・無声破裂音の対立を持たない北京語の母語干渉があると考えられた。 5.自然な日本語音声が比較的多く耳にはいる地域では、聴解を得意だと意識している学習者ほど、破裂音の弁別能力および聴解力も高い傾向が見られた。 6.日本語音声に触れにくい地域では、全体に聴解の不得意な学習者が多く、破裂音の弁別能力と聴解力の相関は見られなかった。 7.5.と6.のような地域による差や、5.の同一母語話者内の個人差を生む要因としては、母語干渉ではなく、学習者をとりまく言語生活や教育環境、所属集団の文化・社会的規制や規範などが考えられる。
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