研究概要 |
1.n個の連続パラメータθ≡(θ_1…θ_n)で特徴づけられる(時間)離散確率過程について、一般化統計多様体を構築した。離散時間Nにおけるランダム変数X(N)に対する確率密度関数p(X,θ,N)のnパラメータ族S_N≡{p(X,θ,N)|θ∈Ω}の上に、情報幾何学の標準的方法により計量テンソルとα接続を導入した。時間が経過すると、統計多様体の時系列…S_1,S_2,…,S_N,…が生成され、これらを寄せ集めて層状の統計多様体すなわち統計多様体Sと整数の集合Zの直積空間S×Zが得られた。この一般化統計多様体S×Zの上に、Newton重力のNewton-Cartan理論並びにHiggs場を拡張ゲージ場として導入する素粒子物理学の理論に習って、異なる層同士を結ぶ拡張接続を導入し、それとα接続から拡張曲率テンソルを構成した。この新しい幾何学的方法をランダムウォークに適用し、その一般化統計多様体は双対構造を持つことを示した。 2.Janyszek-Mrugala(JM)解釈「熱平衡系のRiemannスカラー曲率Rは系の不安定性の尺度」の妥当性を含め、Rの物理的意味を調べた。3次元の場合には、JM解釈はBoseおよびFermi気体のみならず、Gentileの中間統計にしたがう非ゼロ質量の理想量子気体にも適用可能であることを示した。また、これらの気体のRの特性は量子力学的交換効果によって説明できた。しかし、2次元でのWuの分数統計にしたがう非ゼロ質量の理想気体、および4次元でのゼロ質量のBose気体についてはJM解釈は成立しなかった。このような問題点を克服する、曲率Rに対する次元によらない関係式を導出した。この関係式では、熱力学的不確定関係ΔSΔT≧kT(エントピーS、温度T、Boltzmann定数k)における不確定積とその最小値との差が、α測地線に沿ったRの積分で与えられる。また、BoseおよびFermi気体についてRiemann幾何学の測地線の大域的特性を明らかにした。 3.曲率の物理的役割を広くもとめて、新しい熱平衡モデルあるいは確率過程モデルの構築も同時に進めた。3つの萌芽が得られたが、幾何学的特性の研究は今後の問題として残された。
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