研究概要 |
本研究では開発現場でのニーズの高い,「プロジェクトが終了する時点での最終品質と工数を,開発の途中で推定する」技術の開発を目標としている.この2年間はペトリネットモデルに基づく開発プロセスの記述とそのシミュレーションについて検討を重ねてきた.まず,開発プロセスのペトリネットによる記述に関しては,従来より検討してきている方法で基本的に十分であるとの結論を得た.各開発工程(設計,コーディング,テスト)ごとに1つのサブネットを定義する.ペトリネットのトランジションがソフトウェア開発の基本操作に対応し,プレースが連続する基本操作の間の区切りを表している.推定を目指している品質,工数の計測のためにトークンに属性を導入し,トランジションが発火するたびにその値を確率的に変化させる.あるサブネットから次のサブネットへの移行は開発計画に沿って決める. シミュレータを実際に適用するに当たって最も困難な問題は,多くのパラメータの値の決定であった.種々の実験的検討の結果,各基本作業に対するパラメータ毎に特徴的な性質を明らかにした.次にそれに基づいて1つのヒューリスティックSの開発に成功した.このヒューリスティックSはパラメータ値を決める順番に優先順位を導入し,いくつかの類似プロジェクトの開発データ(フォールト数と工数)にシミュレーションで求まる値が近づくように探索していく.有効性に関する評価実験については,ある協力企業の品質保証部門との共同研究の形で進めた.その結果,開発途中でのプロジェクトの状況が良くないとマネージャーが判断して適切な計画変更が行われた場合について,プロジェクトの工数と最終プロダクトの品質への影響の推定を,開発したシミュレータが実用的な立場から見てかなり高い精度で行えることが確認できた.
|