研究概要 |
自然科学に代表される経験科学において,一つの理論が形成されてゆく過程には,決まって「仮説形成検証過程」が現われる。伝統的には,一度「仮説」が形成されると,その仮説に従って「実験」が計画され,仮説に対して正の「データ」が観察された場合には仮説は「確証」され,一方負のデータが観察された場合には仮説が「反証」され棄却されて,新たな次の仮説が形成されることになる。つまり,「仮説の正否は常にデータに依存して決定される」とみなされる。しかしながら,現実場面における人間の仮説形成検証過程においては,しばしばこの単純な図式からの逸脱が観察される。例えば,負のデータが観察された場合にも,データを「無視」したり,例外として「排除」したり,データに対する新たな「解釈」を加えたり,「補助仮説」を付け足したりする中で,仮説を保護しようとする。このように,実際には,仮説は単純にデータに一方的に依存しているわけではなく,そこで生じていることは,「仮説とデータのインタラクション」と捉えることができる。本研究では,第一に,この「仮説とデータのインタラクション」のプロセスを,認知心理学的実験方法に基づいて,実証的に検討した。 本研究で取り上げた第二のテーマは,科学的発見における発見主体としてのエージェント(科学者,コンピュータなど)間のインタラクションである。重要な科学的発見が,単独の科学者によってではなく,複数の科学者の「協同」を通して行われることは珍しいことではない。我々の日常的な直感としても,問題を一緒に解決したり,ともに何かを創り上げたりすることは,何らかのポジティブな効果をもたらすものであるように感じられる。それでは,科学的発見に代表される新しい知識獲得の場面において,このような協同の効果は現れるのであろうか。協同の効果があるとするならば,それが現れる条件とはいかなるものであろうか。本研究では,このような問題意識から,科学的発見における協同の役割について,計算機シミュレーションを用いた計算機科学的方法に基づいて,実証的に検討した。
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