研究概要 |
本研究は,対象を調性音楽に限定し,音楽におけるストリーム・セグリゲーション(音脈分凝)のための基礎技術を開発することが目的であった.音脈分凝は,複数の音源からの音が同時に聞こえてくる音環境中で,それら個々の音を分離・同定して聞くこと,あるいはその機能を計算機上で実現することである.音脈分凝には,音色・音高・時間情報・音の到来方向など,種々の要因が関係しているが,本研究ではその中でも特に音楽と関係した事項について検討した.具体的には,多重奏の自動採譜のために必要な,各声部音の分離,音高判定,調の判定,楽曲の構造解析,などである. 本研究は,多重奏(特に弦楽4重奏)の自動採譜を目指して,それに目処がつくレベルにまで漕ぎ着くことが目標であったが,最終年度でそれに手が届くところまで到達できたので,目標は達成できたと考える.ただし,最終成果は,学生の卒業研究が終了した段階で,まだ外部発表していない. 以下,4年の研究期間における研究の概略を内容別に述べる. I.音高・ピッチ知覚 音列(継時的な音)を聞いた場合の音高知覚について検討し,音高の知覚し易さを表す指標CPFを提案した.さらに高音域歌唱におけるビブラートによる音韻性向上を検討した. II.音高知覚と方向定位 先行音効果を利用した2chステレオの実現可能性を検討した.また,高域成分だけからなるミッシング・ファンダメンタル音を用いた実験から,聴覚系では音高知覚が方向定位よりも先に処理されることを示唆する実験結果が得られた.生理学との整合性は今後の検討課題. III.和声理論のインプリメンテーション バス課題に対する許容解を深さ優先探索によって全数列挙するバス課題システム"BDS"を開発し,その出力の中で規範的な美の統計的基準に基づいた選別を行うシステムを開発し,かつ対象をソプラノ課題に拡張したソプラノ課題システム"SDS"も開発した. IV.音楽全般 調の判定と楽曲の構造解析から,音楽美の規範を統計的に検討した.また,音楽における普遍性に関して認知科学の観点から検討し,調性崩壊後の音楽の発展を如何に捉えるかを論じた. V.自動採譜 Gestalt原理に基づくヴァイオリン3重奏の採譜から始めて,「多重調波構造モデル」に基づく基本波成分の抽出によって,ギターの6重音から弦楽4重奏も採譜できる目処が立った.まだ,音楽知識と統合した採譜にまでは至っていないが,弦楽4重奏の自動採譜はこれまで例がない.
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