研究概要 |
仮想現実感の対象としている物体は通常変形しない堅い物体である.本研究では対象を柔らかい物体まで拡張するにはどのようなアプローチが必要なのかを検討した.柔らかい物体としてはCT画像から得られた人の顔頭部,またテスト用として,シリコンゴム製8cm立方体を用いた.3次元物体の柔らかさを表現するモデルとして,バネネットワークを用いる.まず顔と骨の表面に直径5[mm]程度の球状バブルを配置する.ついで,この2つの表面に囲まれた3次元領域に球状のバブルを詰める.こうして得られたバブルの中心をノードとして,近傍のノードを接続して,バネネットワークモデルを作る.ノードとノードの距離は必ずしも一定ではないためにどのノードを接続するかは,トポロジーを考慮する必要がある.ボルノイ線図を用いて,接するバブル領域を同定して,その間のみノード接続する工夫を行った.ノード間には,バネを配置して,柔らかさを表現する仮想物体のモデルは完成する. バネのばね係数は次のように決定する.実物の表面を押したとき,力と変位の関係を測定し,仮想物体においても,この関係が同じになるようにバネ係数を調節する.力を観測するためにカセンサー,変位を測定するために,レーザ変位計を用いる計測装置を特別に制作した.ある程度以上押しても変位は変化しない非直線性を反映するように,折れ線により近似した.シリコン立方体で5点,人の顔表面ではほぼ2[cm]間隔9点で測定を行った. 柔らかを表現した仮想モデルを表現,表示するにはパソコンPentium III 500MHZを用いた.カフィードバック装置としてPHANToMを用いた.力と変位の計算を早めて実時間を確保するために,モデルでの変位の及ぶ範囲を前もって計算し,変位が実際上極めて小さい所以上の遠いノードでの変位は計算しない方法により,実時間性を確保した.実物を実際に押しているときの感覚と仮想物体をPHANToMで押しているときの感覚がほぼ類似していることを実験的に確認した. こうしたシステムは仮想現実システムにおいて,柔らかい物体を持ち込むことが出来ることを示し,いろいろの応用(例えば触診)を拓くものである.
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