研究概要 |
広く認識されているように,効率よく解ける組合せ最適化問題のほとんどは何らかの形で劣モジュラ構造を有している.したがって,大規模組合せ的なシステムの最適化においては,それが有する劣モジュラ構造を有効に利用することが効率的なアルゴリズムの設計において最も重要となる.そのような観点から,本研究者は劣モジュラ構造に関する基礎研究を続けてきている. 今回の科学研究費補助金による最大の成果は,一般の劣モジュラ関数を最小化する効率的な,強多項式時間アルゴリズムを導いたことである.これはこれまで約20年の間,組合せ最適化の研究者にとって最も重要な未解決問題の1つであった.これによって,劣モジュラ・フロー問題など,劣モジュラ関数最小化が効率よくできることを前提にモデル化されアルゴリズムが提案されている多くの問題に対して,効率的アルゴリズムの構成を保証することになった. 以上の成果は世界的にも大変大きなインパクトのあるものであるが,その他にも以下のような成果を得ている. 対称な劣モジュラ関数の最小化のためのM.Queyrannneによるアルゴリズムの妥当性の簡単な証明を与えた.また,凹関数から派生する劣モジュラ関数の最小化に関して,パラメトリック最大フロー・アルゴリズムによる解法を示した.さらに,対称な劣モジュラ関数を一般化した正モジュラ関数による多面体の線形不等式表現に関して,非冗長な制約式に対応する集合の全体がラミナーな族をなすことを示した.そして,Faigle-Kernによって研究されている双対貪欲多面体が,劣モジュラ・フロー多面体のクラスに属することを明らかにした.その他には,劣モジュラ関数最小化とも密接に関係する多面体上の最小ノルム点問題に対して,点の凹結合として表現される多面体とアフィン空間との交わり上での最小ノルム点問題を解くアルゴリズムを提案した.
|